了巷説百物語 感想 (ネタバレあり)
時系列的には後巷説百物語が一番後なわけなので、了ってことは一白翁を看取った後の又市のハナシだったりするのかな〜とおもっていたし、遠巷説百物語で仲蔵が蝦夷に行くって言ってたのでその辺と絡んでくるんかな〜などと想像していたのだけど、最終章の百物語でやっとこ「ははァ〜〜遠の前ってことね!!」と気付いたのであった 百物語では、前半の語り部だった山岡百介と、遠の語り部だった宇夫方祥五郎がしれっと出会っていて、そこに了の語り部の稲荷藤兵衛も居合わせるという、聖地志るこ屋が誕生して笑ってしまった 最近筆が乗ってるのかとにかく供給が多くて困るレベルなのだが、いろいろな著述を通して伝わってくるのは資本主義社会への警鐘というか....社会的包摂みたいなことを言わんとしているのかなあ、と自分は受け取っている
了では、天保の改革をテーマにいわゆる資本主義的な、人の価値をカネで量るみたいのってどうなん?というのが相手方の冨久や、その手下の七福連や富三たちの言動と、相対する中禪寺洲齋や又市たちや一文字屋の面々、そして本作の語り部である稲荷たちとの対話によって感じられた 百鬼夜行シリーズでは、大立ち回りといっても榎木津が大暴れするぐらいだが、こちらは必殺仕事人みたいな(あんまちゃんとみたことないけど)それぞれ技能を持った裏稼業のキャラクターたちが暴れてくれるので愉しく(も哀しい)読めた 昭和の中禅寺の憑き物落としスタイルはそこそこ洗練されていたのだな、と原初憑き物落としを読んで感じた
ラストはあまりに人が死にすぎる拝み業だったからな....
このシリーズってある種のケイパー映画的な面白さがあったとおもっていて、ラストはそのケイパーが通じなくなってしまったという展開なので、そうじゃなくなるのは仕方のないことだけども、そういう意味でも悲しかったナ....
ところで、天保の改革つっても社会の教科書やら資料集で読んだ程度の知識しかなかったんだけど、遠山金四郎が出てきて「な〜るほどね!」となったりした 弔堂やヒトごろしあたりから実在の人物が描写されていても特に驚かなくなってはきたものの、フィクションながら天保の改革の時代の景色がまぶたに写るようでめっちゃ面白いIFシナリオだったなあ、と 登代を巡って、茄子婆の催眠術という技が介入してきたり、仁蔵だったり、登代の育ての父だったり、いろんな人の思惑が交錯した結果、グチャグチャの血みどろの争いになってしまい....というのはもう京極文学の十八番みたいな展開でちょー面白かった
ラスボスの冨久、そして嘉太郎は娘である登代を取り戻したかっただけなのだが、登代は将軍家の血筋と帝の血筋を引いている血統最強の存在で....っていうのが最後のツイストなのであった
散々争われた箱は、いわゆる血統の証明書なのであった...というね
血筋によって権勢が維持されているという体制に強烈な憎しみを感じている人が、その体制を突き崩すためにより血統主義に陥ってしまうってのは悲しいけどよくある感じするよねえ...
なんていうか、自分も世の中の人間に対してムカついたりすることあるんだけど、オレは絶対その土俵には上がらねェぞ、という矜持というかなんというか、そういうのをいつも胸に仕舞っている
洲齋が作中で言っているように、自分がしていることは絶対に正しいと信じてはいないが、正しくあらんとする姿勢だけは絶対に曲げないぞ、という誓いというかなんというか
権威主義体制を突き崩さんとしていた人が、いざ突き崩して実権を握ると強権的になってしまって...みたいな.....
そういや鵼の碑でも記憶があやふやなガール出てこなかったっけ.... 本当にIFシナリオだけど、例えば明治維新の動乱で登代のような存在が担ぎ上げられてたらイギリスみたいに女性の天皇がいるルートもあったりしたんかなあ....と考えてしまった というのも、ちょうど石破の所信表明演説で石橋湛山の引用をしていて〜ってので石橋のことを知ったのだけど、岸信介に勝って総裁になってたのをはじめて知った。そして脳梗塞で早々に退陣していて、この脳梗塞がなければ....ってハナシもあるそうで 浅沼稲次郎をもってして「政治家はかくありたい」と言わしめる人物らしいし ところで、あまりにフラグ立ちまくってるけど石破大丈夫か?脳梗塞には気をつけて.....
作中で藤兵衛も化け物遣いたちのいわゆる「嘘も方便」的なやり方ってどうなん?と揺れ動く存在なのだが、洲齋が登場することによってかなり決定的に虚ではなく理で事を丸めるという憑き物落としスタイルへと移り変わっていくのだが、昭和の憑き物落としでは共同体的なコミュニティが解体されていくことの悲哀みたいなものが描かれている感じがしていたが、こちらではその前段階として咒が通じなくなっていくことの悲哀を感じたかなあ....